ペットの献血、見つめ直されている企業の社会的責任── 時代の先端で今まさに起こりつつある事象を常に先取りする「実践ビジネス英語」。 2020年度前半はどのようなテーマを取り上げているのかについて杉田先生に語っていただきました。

10年以上前のことですが、テキスト4月号の「はじめに」のところに、「英語を学習するのは、自分で計画を作ってそれを着実に実行する強い意志が必要だし、基本的にはつらく、苦しいプロセスです」と書いたことがあります。実際、言語を習得するのは簡単ではありません。
ちまたには、「楽しみながら」「知らず知らずのうちに」「涙なしに」など、簡単に英語をマスターできるような暗示を与える題名の本や教材、語学学校などの宣伝文句が氾濫しています。 こうした「神話」が、実は語学学習を阻害しているのではないでしょうか。ただ漫然と目的もなく、BGMのように英語を聞いているだけでは、どんなに長時間聞いていても効果は上がるはずがありません。 まずは英語に対する「興味」を自分自身に持たせる努力をすることが肝要です。そのためには、多くのビジネスパーソンが興味を持てるコンテンツを提供するよう、私も心がけています。

2020年度4月~9月のテーマ

4月
  • Lesson 1:Pets Giving Blood──ペットの献血
  • Lesson 2:Whither the Retail Business──どうなる、小売ビジネス
5月
  • Lesson 3:Reducing Food Waste──食品ロスを減らす
  • Lesson 4:New Possibilities With AI──AIがもたらす新たな可能性
6月
  • Lesson 5:Unretirees on the Rise──増加する退職後も働く人たち
  • Lesson 6:Combating Heat Waves──酷暑との闘い
7月
  • Lesson 7:Four-Day Workweek──週4日勤務制
  • Lesson 8:New Era of Corporate Social Responsibility──CSRの新時代
8月
  • Lesson 9:Keep Your Eyes on the Road──ながら運転をしないで
  • Lesson 10:What Are Friends For?──友達は何のために
9月
  • Lesson 11:Vanishing Professions──消えゆく職業
  • Lesson 12:Midlife Crisis──中年の危機

※5月以降は予定です

関心が高まりつつある食品ロスの問題

2020年度前半のビニェットのテーマと会話の流れは、だいたい決めましたが、タイトルは少し修正するかもしれません。5月のLesson 3では食品ロスの問題を取り上げます。アメリカで外食する時にいつも感じるのは、料理のportionが非常に大きいのと、食べ残す人が多いこと。学生食堂などでは、トレイに載せた食べ物の半分近くが捨てられているような気がします。カフェテリアでは好きなだけの量を取ることはできるとはいえ、いったんお皿の上に置いたものは残さずにすべて食べる、というのが西洋の食事の基本的マナーだったはずなのですが……。
食品ロスは世界各国で大きな問題になっており、消費期限が迫った商品を値引きして売ったりといった取り組みが進んでいます。ゴミの分別については、日本はアメリカよりずっと進んでいると思いますが、食品ロスを減らすことについてはどうなのでしょうか。

Lesson 4は、AIがもたらす新たな可能性に焦点を当てました。「テクノロジーがいくら進歩しても、自分の業務だけはAIに取って代わられることはないだろう」という考えは、もしかしたらもう通用しないかもしれません。私が携わってきたPRやジャーナリズムの世界では、「AIができない仕事はやがてほとんどなくなるだろう」とも言われ、AIといかに協働するかが重要課題となっています。
現在でも、企業の決算発表のプレスリリースはAIが書けますし、天気予報やスポーツの結果記事などはもう実際にAIが作成しているのです。AIが書いた記事が「ピュリツァー賞を取る時代が来るか」ではなく、「いつピュリツァー賞を取るか」が話題になっています。大方の予想では10年とか20年以内と言われていますが、それよりもっと早まるかもしれません。

退職後も働き続けたい

6月のLesson 5は、退職後も働く人たちをテーマにしました。クリント・イーストウッドは90歳近くになっても映画製作に携わっていますが、彼のように「生涯現役」を志す人がアメリカでは増えています。かつては老後のあこがれとされ、ゴルフ場や社交クラブなどが整った退職者向けのretirement villageの人気も最近は衰えてきました。こうした特別な場所に移り住むよりは、住み慣れた街で元気に生き続けたいという人が増えています。

今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、日本の夏の暑さが大会に悪影響を及ぼさないことを祈るばかりです。この「酷暑」がLesson 6のテーマとなります。地球温暖化が指摘されて久しいですが、特に夏の酷暑は世界的に厳しくなっています。昔は冷房が必要ではなかった地域、たとえば帯広、ボストン、ロンドンなどにおいても冷房を備える家が目立ってきました。都市部のヒートアイランド現象も深刻な問題となっています。

7月のLesson 7では、週休3日制つまり「週4日勤務制」を取り上げます。アメリカでは夏季の間だけ、金曜日は半休やお休みにする企業も増えてきているのですが、Alex & Alexは恒常的な週4日勤務制の導入に向けて試験的な運用を開始しました。週4日勤務制により、社員のワークライフバランスや生産性は実際に向上するのでしょうか。

Lesson 8のテーマは、「CSR(企業の社会的責任)の新時代」です。昨年、アメリカの大手企業のトップ約180人が「株主至上主義」との決別を宣言し、大きな話題を呼びました。企業は利益の追求と同時に、自然環境や労働者の幸福を考慮に入れなければならない、という「新しい資本主義」の考え方が今後はもっと広まるでしょう。

スマホ時代の新たな社会問題

8月のLesson 9は、急増している「ながら運転」。日本では昨年12月に「改正道路交通法」が施行され、ながら運転への罰則が強化されました。アメリカでもながら運転による事故が頻発しており、大きな社会問題となっています。

Lesson 10では、「友情」を取り上げます。臨終の床にあって「ああ、もっと会社で仕事をしておけばよかったな」と思う人はあまりいないでしょうが、「あの友と連絡を保っておけばよかったな」というのは人生で悔いの残ることの1つだとされています。アメリカでは「30歳を過ぎたら新しい友達はできない」とも言われますが、友達は何のためにいるのでしょうか。友達と一緒に事業を起こすのは、友情もお金も短期間に確実に失う方法だともされますが、それはやってはいけないことなのでしょうか。
小学生の時に一家でパラグアイに移住したクラスメートや、高校を中退して中国の西安に渡り、四川料理と中国語をマスターして帰国すると言っていた友人は、今何をしているのでしょうか。連絡を保っておけばよかったのに、と思うことが、私は時々あります。

9月のLesson 11では「消えゆく職業」を取り上げます。最近はアメリカで、「秘書」や「アシスタント」という肩書の人に会うことはまれです。タイピストや電話交換手もほとんど姿を消してしまいました。デジタル機器に取って代わられてしまったのです。次はスーパーマーケットやコンビニエンスストアのレジ係やスポーツの審判員でしょうか。新聞や郵便の配達員もやがてはいなくなるのでしょうか。ニュースキャスターや新聞記者はどうなのでしょう。
私にとって昨年の最もショッキングなニュースの1つに「ワシントンのNewseumの閉鎖」があります。Newseumはnewsとmuseumを合わせた造語でニュースとジャーナリズムに関する博物館ですが、資金難のために昨年末で閉館となりました。数年前に訪ねたことがありますが、アメリカのジャーナリズムの歴史を克明に伝えるすばらしい展示施設でした。この閉館は、アメリカのメディア産業の置かれている苦境を反映しています。もう一度、時間を取って訪れてみたいと思っていたので、残念です。

前期最後のレッスンのテーマは「中年の危機」です。このテーマは過去に2回取り上げたことがありますが、当時と今とでは背景がかなり異なっているので会話の流れも違っています。
実はある時、地方での講演会のあとに、「ひと言感謝の気持ちを伝えたい」と、1人の女性が私のところにやって来られました。1994年に取り上げた「中年の危機」のビニェットを聞いたことが、人生の転機になったというのです。「あれを聞いて非常に勇気づけられました。中年になって人生に迷いを生じているのは自分だけではないのだとわかりました。大きなインスピレーションをいただき、生きる希望が湧いてきました」とおっしゃいました。

リスナーからの反響に励まされて

この番組は1987年4月にスタートし、私は1年半降板していた時期もありましたが、NHKの語学番組の中では最長寿番組となりました。おかげで、世界中どこに行っても番組を聞いている(聞いていた)という人にお会いします。 「番組を聞いていたおかげで、こうして海外駐在員になることができました」と言われたことも何度かあります。昨年お会いしたある熱心なリスナーは、冬場だけマレーシアに住み、ボランティアの医療通訳をしているのですが、「番組が始まって以来、1日たりとも聞かなかった日はありません。今はストリーミングで、世界のどこにいても番組を聞くことができます」とおっしゃっていました。
こうしたリスナーの声に、私も励まされています。ビニェットの中で使った語句や私が話したりテキストに書いたりしたことが、リスナーの心の中に生きていることを知って、心が温まることもありますね。

取材・構成/髙橋和子 撮影/安井 進

※後編はテキスト5月号に掲載されています。