今月のオススメ、3つめは「趣味どきっ! 人と暮らしと、台所」。
住まう人のライフスタイルやこだわりが反映され、人となりや暮らしぶりだけでなく、その人、その家族の生き方までもが、かいま見えてくる。それが台所です。
暮らしを大切にしている8組の方々の台所を訪ねた本書より、今回は3組の方々の台所をダイジェスト版でご紹介。わが家の台所をより心地よくしていくためのヒントが、きっと見つかりますよ。

おいしい〝ごはん〞のために

米農家

山﨑宏・山﨑瑞弥

やまざき・ひろし/やまざき・みずや 江戸時代から続く米農家の6代目。茨城と埼玉の2か所で、農薬や化学肥料をほぼ使わずに米を育てている。お米の味を伝えたいと、少量から自家販売している。おいしく、安心できる質にファンが多い。著書に『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)。www.okome-yamazaki.com

山﨑さん夫妻の台所

わが家にとって台所は灯台みたいなところ。
ともっていれば、大変なときも乗り切れる

 「毎日忙しいので、バタバタしています。それでもご飯は炊きたてを食べたいから、毎食パッと圧力鍋で炊いています」と、手早く今日のご飯を準備しながら瑞弥さんが話します。

 「台所って、灯台みたいな場所だと思うんです。灯台って海がしけていても、なぎのときも明かりがともっていて、船の安全を守ってますよね。台所も同じ。家族が元気なときもそうでないときも、仕事が順調なときも疲れ果ててるときも、台所に明かりがついていれば『今日のごはん。なんだろうなぁ』って楽しみになるな、と」。

 「お母さんひとりでがんばりすぎると疲れちゃうので、灯台守はそのときに余力がある人がやればいいと思ってます」と瑞弥さんが話す横で、宏さんがうなずきながら、おかずの準備を続けています。ここを守る夫婦がいるからこそ、おいしいごはんが食べられ、健やかでいられるのです。さあ、子どもたちがお待ちかね。今日もおいしいごはんを家族みんなでいただきます。

こだわりの道具

米農家の台所はお米のおいしさを確かめ、発信する場所

 どんな鍋でお米を炊いているんですか?という質問に、山﨑さん夫妻は次々と道具を出してきてくれます。
「お客様に聞かれることが多いので、きちんと答えられるようにと思って。うちは、忙しいときは圧力鍋ですが、ゆっくりと土鍋で炊いたご飯も好きです。でも、もちろん鋳物やアルミの鍋でもおいしく炊けます」。

遊び心を忘れない

建築家

中村好文

なかむら・よしふみ 1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、宍道建築設計事務所、吉村順三設計事務所を経て独立し、「レミングハウス」設立。住宅建築を中心に活動。家具デザインも行う。主な作品に「三谷さんの家」「伊丹十三記念館」など。『住宅巡礼』(新潮社)ほか、著書多数。『百戦錬磨の台所』(学芸出版社)が2020年9月に刊行予定。

中村さんの台所

料理できるよう、事務所にも台所を。
暮らしを知っている建築家でいたいから

 中村好文さんの事務所では、鳩時計がポッポッと鳴いて12時を知らせると、お昼ごはんの作業分担をするため、ひとりずつ袋へ手を差し込んでくじ引きをします。「スタッフと分担して楽しく料理して食べるにはどうしたらいいか考えて、くじをつくったんです。自分たちでつくればおいしいし、1つの鍋をつつく楽しさみたいなものがあるでしょう?」

 住宅を設計するうえで大切にしているのは、暮らしやすさ。それを感じるには、設計者自身も暮らしを大切にしなければいけないと考えているのです。「手間をかけなくてもいいんです、簡単なもので。料理すれば、台所の使い勝手を実感できます。そもそも食には、人の生活のセンスが詰まっていると思うんです。買い物に行けば、並んでいる野菜で季節を感じられるし、料理すれば、台所や道具について知ることができるし、食べるとなると器やしつらえについても考えるし。住宅を設計する人間は、そういう感覚を失ってはいけないと思っているんです」。

こだわりの道具

機能的な道具こそがいい道具であり、ひいては美しい道具になる

 「きちんと機能しているものこそ、美しい。ほら、このやかん、かっこいいでしょ?」と見せてくれたのは、大学生の頃に購入し50年近く使い続けているというやかん。底面が銅製で熱伝導率がいいそう。「所帯道具としての基本として買ったけど、いいデザインは教材にもなるんだと気づきました」。

ひとりを楽しむ

料理家・文筆家

高山なおみ

たかやま・なおみ レストランのシェフを経て料理家に。素材の味をいかしたシンプルな料理が人気。文筆家としても活躍しており、絵本制作にも取り組んでいる。近著に絵本『おにぎりをつくる(写真・長野陽一)』(ブロンズ新社)『それから それから(絵・中野真典』(リトルモア)『帰ってきた 日々ごはん⑦』(アノニマ・スタジオ)などがある。www.fukuu.com

高山さんの台所

ときどき味見して、ときどき窓の外を見て。
自然の風や音、味を感じながら料理ができる台所

 「この部屋に決めたのは、窓からの眺めに惹かれたからです。台所に立ってみたら、空と海しか見えなくて、ここで料理したら気持ちいいだろうなと思って」。六甲山のふもとに建つ古いマンション。長く急な坂道を上った先に、高山さんはひとりで暮らすための新しい場所を見つけたのです。

 東京に住んでいたときと同じ道具を使っているものの、つくる料理は変わってきました。「台所はいつも、風通しのいい場所にしておきたい。日々、新しくごはんをつくって食べ、出てきたゴミを出すの繰り返し。台所って、人の心や体と相似形だから」と話しながら、また窓の外を眺める高山さん。そしてまた台所に戻って、にんじんの味見をし、大豆のゆで加減を確かめ、うん、と小さくうなずきました。新しい土地、新しい台所から生まれる味は、間違いなく高山さんの力となっているのです。

こだわりの道具

20年、30年選手が並ぶ。
長年の相棒である道具が暮らしと食を支えてくれる

 「華奢なものも好きだけれど、長く使えるような道具が多いと思います」と見せてくれたのは、どれも20年、30年以上使っているというもの。
 「料理上手な義理の姉からもらった鍋やフライパン、木べらは今でも大事に使っています」。

それぞれの暮らしぶりや生き方が表れた、三者三様の台所、いかがでしたか?

テキストでは、山﨑さんご夫妻、中村さん、高山さん、そしてその他5組の方々の台所をさらに詳しくご紹介。とっておきのレシピや心地よく暮らすヒントのほか、巻末には土鍋や木の器、曲げわっぱなど「お気に入りの道具」を長く使うためのお手入れ方法も収載しています。

暮らしに合ったアイデアを取り入れて、わが家の台所をより心地よく、幸せに満ちた場所にしていきませんか?

趣味どきっ!「人と暮らしと、台所」