30年以上に渡り、NHKビジネス英語講座の講師を勤めてきた杉田敏先生。「実践ビジネス英語」は今年度で終了しますが、同じコンセプトのもと、季刊ムック『杉田敏の現代ビジネス英語』が新たに登場します。

その発売を記念して、特別企画を全4回にわたってお届け。インタビュー記事などを振り返りながら、新作の魅力に迫っていきます。どうぞ最後までお見逃しなく!

※本記事はシリーズ第2回です。前回の記事はこちらからお読みいただけます。

第2回 レッスンに込められた想い

今回はレッスンの肝ともいえる”ビニェット”(英文)に関するお話からお届けします。

──『実践ビジネス英語』のビニェットは、ハイレベルながらも「社会問題を考えるうえでも勉強になる」と評判を集めてきました。
どのような想いをもって執筆されてきたのでしょうか?

10年以上前のことですが、テキスト4月号の「はじめに」のところに、「英語を学習するのは、自分で計画を作ってそれを着実に実行する強い意志が必要だし、基本的にはつらく、苦しいプロセスです」と書いたことがあります。実際、言語を習得するのは簡単ではありません。

ちまたには、「楽しみながら」「知らず知らずのうちに」「涙なしに」など、簡単に英語をマスターできるような暗示を与える題名の本や教材、語学学校などの宣伝文句が氾濫しています。
こうした「神話」が、実は語学学習を阻害しているのではないでしょうか。ただ漫然と目的もなく、BGMのように英語を聞いているだけでは、どんなに長時間聞いていても効果は上がるはずがありません。

まずは英語に対する「興味」を自分自身に持たせる努力をすることが肝要です。そのためには、多くのビジネスパーソンが興味を持てるコンテンツを提供するよう、私も心がけています。

──ビニェットを書くうえで、情報はどうやって収集するのですか?

俳優でユーモア作家のWill Rogersの有名なことばに、All I know is just what I read in the papers. がありますが、私の主要な情報源は海外のニュースメディアです。The New York Times, The Wall Street Journal, USA Today, The Guardianは、必ず毎日読みます。そのほかにもPR業界のオンライン・ニュースレターや一般雑誌、それにCNN, BBCなどのテレビ・ラジオ局のウェブサイトなどにも目を通します。

PRマンだった時には、金融、航空、メーカーなど、ありとあらゆる業種のPRをしていましたから、クライアントが興味を持つであろうニュースや、その周辺の情報を提供するために、いつもいろいろな情報を集めていました。今、何が売れているのか、何がダメになってしまったのかなど、社会の動き、企業の動きに今でもとても興味があります。
欲張って情報を詰め込もうとしても、底の浅いものになりがちですし、それ以前に頭の中に入ってこないでしょう。誰でも興味を持ったことは覚えているものです。自分なりの好奇心を持ってメディアを読む、見る、ということで深い情報収集ができると思います。

──ビニェットの舞台であるAlex & Alex社もかなりリアリティがあります。何かテーマがあるのでしょうか?

この会社の社是は、Love & Profit。つまり、社員や顧客や社会に対して愛をもって接しながら、利益もしっかりと出し、社員や株主などに還元する、という考え方で、番組開始当初から一貫して掲げてきたテーマです。その根底には、「愛と利益」の精神とかけ離れた実態をたくさん見てきたことがあります。これまで勤務した会社の中にもMoney! Money! Money! companyがありましたし、クライアントの何社かもそうでした。もちろん当時の時代的な風潮もあったでしょうが。

また、child labor(児童労働)を使わない、動物実験も一切行わないとうたっていた企業が、実はどちらもこっそりやっていたとか、人気の就職先として常に上位にランクインする社会的評価の高い会社が、実は頻繁に社員をクビにしていたなど、崇高な理念を掲げる企業の裏の顔もさんざん見てきました。PRという仕事柄、あらゆる業種の実態に触れ、幾度となく失望させられてきたわけです。おのずと、「会社はどうあるべきか」「愛と利益をどう両立したらいいのか」といったことを考えるようになりました。

社員に「奉仕」の気持ちをもって接し、そこからリーダーシップを発揮するservant leadership、従業員も会社も人にやさしい社会を目指すcorporate kindness、そしてpay it forwardの「恩送り」といった概念をビニェットに織り交ぜてきました。いわゆる「ブラック企業」とは正反対の思想です。

次回は3月8日更新予定です

ビニェットには、ビジネスパーソンとして活躍してきた杉田先生の経験や英語学習への想いがぎゅっと詰まっているのですね。その理念は新作『杉田敏の現代ビジネス英語』にも引き継がれています。
第3回は、そんなビニェットを通してどのように学んでいけばよいのか──英語学習にまつわるお話をお届けします。
更新は3月8日(月)の予定です。どうぞお見逃しなく!

音声DL BOOK 杉田敏の現代ビジネス英語 2021 春号