日本中が歓喜に湧いた二〇二〇年東京五輪の決定。 その立役者のひとりであり、招致活動のメッセージ策定から、プレゼンテーションの戦略や草稿の執筆までを手がけ、“五輪招致の請負人”と言われるのがニック・バーリーだ。

自己主張をよしとせず、感情表現に乏しいとされるため、国際的には「プレゼン下手」と言われる日本人が、五輪最終プレゼンで見せたあの素晴らしいパフォーマンス───そこには21世紀のグローバル社会を日本人が生き抜くための、世界基準のコミュニケーション術と戦略が込められていた。

このたび日本で初の著書となる『世界を動かすプレゼン力』を上梓したバーリー氏が来日し、六本木のアカデミーヒルズで300人のビジネスパーソンを前に刊行記念講演を行った。そのエッセンスをご紹介しよう。

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ニック式、プレゼンを成功に導く戦略―出版記念セミナーダイジェスト

それでは、コミュニケーション術について、成功を導くための戦略をお話ししていきたいと思います。これは本にも書きましたが、プレゼンには7つの戦略というものがあります。

ただ、ここで強調したいのは、この戦略が、オリンピック最終プレゼンのような、国家の首相や王妃、スーパースターといった人々だけに向けた、高度な戦略だとは誤解しないでほしいのです。これは、皆さん誰もが応用し、生かすことのできる戦略です。例えば卒業式や結婚式、あるいは職場や学校でのスピーチでもそうですよね。また、LinkedInやTwitterといったSNSで自分を売り込むときも、このような戦略が生きてくるんです。

つまり、よいコミュニケーションとは何か、ということです。
それでは7つすべてをご紹介していきます。

[戦略1]DO THE MATH まずは数字から

戦略その1は、「まずは計算から」

何より、科学的なアプローチをとってください。
つまり、色々なモノをあれこれくっつければ、どうにか上手くいくだろう、と安易に考えないでほしいのです。

例えば物事をリストアップして紹介する場合は、偶数よりも奇数のものを揃えたほうがいいのです。これ、ご存知だった方はいらっしゃいますか。
「3のパワー」というのがあります。これはコミュニケーションのテクニックとしてとても有名で、2020年東京五輪の招致プレゼンでも、やはりこの「3」という数字を生かしました。東京の3つの強さとして挙げたのも、デリバリー、セレブレーション、イノベーションの3つでした。

チームプレゼンでは誰が最初に話すのか、スピーカーは何人か、どの順番で話すか、なぜその順序がいいのか、といったことも計算します。
また、各人が話すスピードはどのぐらいか、どういう場所で話すのか、話すときはこうして演台の後ろに立ってメモを読むのか、あるいは壇上を歩き回ってカジュアルさを演出するのかといった、さまざまな要素をすべて加味した上でプランを計算するべきです。そうすることで独自のスタイルが築かれ、プロフェッショナルなプレゼンになるのです。

[戦略2]KNOW YOUR AUDIENCE オーディエンスを理解する

戦略その2は、「オーディエンスを理解する」です。

これはとても重要です。つまり、誰に対して話をするのか、彼らはなぜあなたの話に耳を傾けるのか、あなたはいったい何を期待されているのか、そしてどのようにその期待に応えることができるのか、ということです。

多くのプレゼンターやプレゼン・チームが陥る最大の間違いは、自分自身に浸ってしまうことです。自分が作ったコンテンツ、自分が作ったプロダクト、自分の考え、というものを伝えようとして、自分にばかり、内へ内へと目を向けてしまうのです。そして、その会場で一番大切なのは聴衆だ、ということを忘れてしまうのです。

プレゼンテーションの成功を決める鍵は、自分の手中にはありません。聴衆の皆さんとのエンゲージメントにあるんですね。

皆さんが「よかった、学ぶものがあった」と思えるかどうかが大切なわけで、自分で「今日のプレゼンはすごくよかったな」と思っても、意味がないんです。

ですので、「聴衆を知る」というのはものすごく大切です。

[戦略3]MAKE AN IMPACT インパクトを演出する

戦略その3は、「インパクトを演出する」です。 これが誰だか分かる方はいますか?そうです。アーネスト・ヘミングウェイです。英語圏でもっとも偉大な作家のひとりですね。

ここでなぜ登場するかというと、彼が受けたある挑戦をご紹介したいからです。 彼はある晩パブで、友人と賭けをしたことがあります。10語以内で物語を書けたら、10ドルやろうじゃないか、という賭けです。その時に彼がつくった文章がこちらです。

 For sale: baby shoes, never worn. ( 赤ちゃんの靴、売ります。未使用。)

たった6語で、彼は素晴らしいストーリーを作りました。無駄に言葉を使わないことで、受け手をもっと知りたいという気にさせる、答えを知りたいと思わせるような質問を投げかけるのです。

ここでのポイントは、プレゼンにおいてはインパクトが大切だということです。たとえば言葉でインパクトを生むには、このようにシンプルさというものが武器になります。
言葉のほかにも、たとえばスピーカーの選択、あるいはプレゼン・チームの人数や構成など、インパクトの作り方にはいろいろあります。
どんな服を着るか、どんな髪型にするのかとか、めがねをするのかしないのかなど、インパクトの創出の仕方は多種多様で、それによって、あなたが何者で、何を伝えようとしているのかが伝わるのです。

[戦略4]KEEP MAKING IMPACT インパクトを持続させる

冒頭にインパクトを作ったら、例えば優れた小説のように、そのあともそれを持続しなければいけません。

思い出してください。聴衆の集中力というのは常に落ちていきます。あなたが同じように話し続ければ、聴衆は集中できなくなるのです。

ですので、何か視覚的効果などを使って、聴衆の注意を取り戻してください。何かを投げたっていいでしょう。どんなことでもいいんです。もう一度、聴衆の注意をひきつけるようなことをしてください。写真やグラフをスクリーンに映す、あるいはスピーカーを変える、あるいは話す姿勢を変える、スクリーンを指差す、さまざまな方法があるでしょう。聴衆を飽きさせずに注意を持続させるのです。これは戦略のひとつであるパフォーマンスにも関わってきます。聴衆に情報を与えるだけではなく、相手を楽しませることが大切です。

[戦略5]BE VISUAL 視覚に訴える

戦略その5「視覚に訴える」です。

もし今日の私のプレゼンから一つ、学んでいただけることがあるとすれば、それは面白い写真やすばらしい画像を使うということです。あなたの心に残り、自然に思い出すような素材は、パワーポイントの箇条書きやグラフ、文字だらけのスライドよりも、ずっと聴衆の記憶に残るんですね。

英語には「1枚の写真は1000の言葉に匹敵する」という言葉があります。本当にその通りだと思います。文章の書き手である私としては心が痛みます。というのも1枚の画像に匹敵するためには多大な労力が必要だからです。でもこれは完全に真実なのです。

たとえばこちらです。これはリオデジャネイロの五輪招致の時に使われたビジュアルです。そこでスピーカーが訴えたのは、今まで南米で一度も五輪が開催されていないということです。そしてこのビジュアルは、その主張を1枚のスナップで要約しています。

つまり、しゃべりやスライドの文字だけではなく、ビジュアルなコミュニケーションについてもしっかり時間をかけて考えてください。スライドに、皆さんのストーリーをいきいきと伝える手助けをさせるのです。聴衆の注意を逸らせてしまうような、退屈なスライドにしてしまってはいけません。

[戦略6]BE VISIONARY 明確なヴィジョンを持つ

6つ目の戦略は「明確なビジョンを持つ」、自分の視点を持つということです。 10分のプレゼンの中に素晴らしいアイデアが一つある、というプレゼンのほうが、15分、20分のプレゼンで非常に包括的で、細かいプレゼンだけれども中心となるビジョンがまったくないよりも、ずっとましです。

もちろん、包括的でプロフェッショナルなプレゼンでもいいのです。でも自分独自の視点、あるいは聴衆は何を聞きたいのかを理解し、しっかりとそれに応えてエンゲージメントを図る、そういった要素がなければいけません。

スティーブ・ジョブズもまた、明確な意見を持つということを重視していました。大衆車を作ったヘンリー・フォードはこう言っています。「顧客に何がほしいかと訊ねても、もっと速い馬、と答えるだけでしょう」
つまり、あなた自身が明確なビジョンを持っていなければいけません。自分の視点、自分の意見を持つべきないのです。

2020年東京五輪の招致のときに、私たちが改善したひとつの点は、リーダーである竹田恆和さんが、非常に明確な東京のビジョンを打ち出すことでした。
それがこちらです。

 ~ディスカバートゥモロー(明日をつかもう)~

これは2016年招致の時とまったく違うものでした。あのときは明確なビジョンというものがなかったし、あったとしても、ころころと3つも4つも小さなものが変わっていきました。

でもあなたには、大きなアイデアがなければいけません。あなた自身の視点、独自性が明確でなければならないのです。

[戦略7]PERFORM パフォーマンス

最後、7つ目の戦略は「パフォーマンス」です。

またスティーブ・ジョブズの例で恐縮ですけども、彼はどのプレゼンテーションでも、つねに最良のものを一番最後にとっておきました。例えば1時間のプレゼンで、あれこれ話すわけです。聴衆は「iPhoneの発表があるはず」と期待しているのですが、「ではこれで終わりです。ありがとう」ってやるんですね。
それから、「そうだ、最後にもうひとつ」って言うんです。そして、最もエキサイティングな商品を発表します。iPhoneやiPadの発表がそこでされるのです。
どうしてそうするかといえば、忘れていたからとか、準備不足で混乱していたからではもちろんありません。彼がパフォーマーだからです。

私たちがアスリートから学べるポイントとして、アスリートの成功の鍵、この太田選手のようにメダルを手にする鍵は、毎日練習を積み重ねることなんです。技術を学び、身体がそれを覚えてく、そうやって上達していくんですね。

プレゼンテーションするときも同じアプローチで臨むべきです。トレーニングが欠かせません。自分のパフォーマンス能力を上達させないといけないんです。声の抑揚やしゃべるペース、聴衆へのアイコンタクトや手のジェスチャーの仕方、こういったスキルはどれも身に着けることができます。

20年前は、私自身、こうやって人々の前に立つのが本当に苦手でした。でも、これは学ぶことができるのです。こうしてパフォーマーになることができます。誰もが、そうなることができるのです。

ですからこの本を書けたのはとても嬉しいです。これを読んだ方なら誰もが、素晴らしいパフォーマーになれると信じているからです。